手元供養をはじめよう。
中国の思惑を探ることで、今後の中国経済の動きを考える上でも重要な論点が浮かび上がってくる。
まず強調しておかなければならないのは、中国の経済成長が輸出に大きく依存していること、その輸出は、人民元の水準に影響を受けるということだ。
一般的には中国の人民元の為替レート水準は、もし介入がなければ実現していた。水準に比べ、相当程度低くなっていたと見られている(ただし、最近では人民元もだいぶ高くなってはいない。
為替レートを低めに設定して輸出を促進しようとするのは、中国のような途上国にはよく見られる現象である。
為替レートが低めに設定されているからこそ、輸出財の生産コストが国際的に見て低くなり、輸出拡大に有利に働くからだ。
中国で輸出を行う企業の多くは外資系企業だが、その外資系企業も、為替レート水準に左右される輸出コストには敏感だと言われる。
中国ではよく、8%以上の成長率を維持することが、社会を安定させる上で必要不可欠で農村部から貧しい労働者が大挙して沿岸部の工業地帯に押し寄せてくる中国で、これらの人々の雇用を確保するためには、経済が8%以上の率で成長を続けなければいけないというのだ。
かりに成長率が下がれば、多くの失業者が出て、暴動などの社会不安が発生すると恐れられている。
この8%以上の成長を維持するためには、輸出が増え続けなくてはならない。
そのためには人民元が大きく切り上がっていくことは好ましくないと考えられたのだ。
中国政府が大量のドル買い介入をしたことは、興味深いことに、中国政府にとって人民元の切り上げがさらに困難になるという事態を招いている。
人民銀行は大量のドル債(米国債)を保有している。
そのドル債を購入するための資金は、人民銀行が保有している中国国債や人民銀行自身が発行する債券を市中に売って確保している。
人民銀行のバランスシートを見ると、資産側に巨額のドル債があり、負債側にはこれまた巨額の人民元建ての債券があるという状態なのだ。
このような状況で、もしドルの暴落、あるいは人民元の切り上げが起きたらどうなるだろうか。
かりに人民元がドルに対して10%切り上がったとしたら、人民銀行の資産であるドル債の人民元建ての資産価値は、10%下がることになる。
一方で、人民銀行債(中央銀行の負債)は変化しない。
二兆ドルの外貨準備は日本円にすればおよそ180兆円になるので、10%の人民元の切り上げは、およそ18兆円の損失ということになる。
バランスシート上、つまり帳簿上の損失とはいえ、かなり大きな額である。
中国政府は大規模な介入を続けて巨額の外貨準備を持つに至ったがゆえに、大きな為替ロスを出す危険を抱えてしまったのだ。
それにもかかわらず、中国の将来を考えたら、人民元を変動レートにして、市場の実態に任せて人民元が切り上がっていくのを容認する必要がある。
この点については後で詳しく取り上げるとして、その前に、このような巨額の介入が引き起こした資産バブルについて考えてみたい。
資産バブル破裂と共産党一党独裁政治の関係
中国の資産市場は明らかにバブルであった。
上海の株式市場を見ると、数年前には1500程度の指数であったのが、それから1年ほどの間に、4倍近い6000前後まで急上昇した。
その後、株価は大幅に下がっている。
この間に多くの中国人が株式市場に参加し、俗に一億人の個人投資家がいると言われている。
不動産市場の過熱はさらにひどい状況である。
たとえば、上海市内には20階建て以上のビルが5000棟から6000棟あると言われている。
東京には370棟程度しかない(2008年時点)。
その上海であるが、私がはじめて訪れた1990年代初頭には、高い建物が非常に少なかったことを覚えている。
要するにこの20年ほどの間に、巨額の投資が中国の不動産市場に流れ込んできたのだ。
もちろん、上海だけの話ではない。
中国のどの大都市に行っても、ビルが林立している。
また、急成長する中国では、巨大な貯蓄資金が生まれている。
中国国民の貯蓄性向は非常に高いが、所得が拡大すればそれだけ大きな貯蓄が生まれる。
中国の貯蓄性向が高いのには様々な理由がある。
そもそも途上国が急成長するときには、どこの国でも貯蓄性向は高くなるものだ。
かつての日本もそうだった。
急速に所得が増える社会においては、消費は所得スピードに遅れて拡大していくので、その差額が貯蓄の増額として出てくるのである。
その上、中国は医療や年金などの社会保障が十分ではないので、国民は自らを自らで守るために、できるだけ貯蓄をしようとする。
このような巨額の貯蓄が流れ込む市場が、株式市場であり、不動産市場である。
一般的に成長を続けている市場では、株価や不動産価格も上昇していく傾向が強い。
ただ中国では、市民が株式市場や不動産市場に参加して、投資ができるようになったのは、比較的最近のことである。
いったん株式や不動産への投資の機会が開かれるや、人々の過剰な貯蓄は堰を切ったようにこれらの市場に流れ込んでいった。
金融市場の過剰流動性も資産バブルの形成の原因となった。
すでに述べたとおり、人民銀行は市場から大量のドルを買い入れている。
このような介入は市中からドルを吸収すると同時に、莫大な人民元(マネー)を市中に放出することにつながる。
過剰流動性となり、インフレの原因となるだけでなく、株式市場や不動産市場の価格高騰の原因ともなるのだ。
もちろん、人民銀行は為替介入によってマネーサプライが拡大することをできるだけ抑えようとしている。
不胎化介入と呼ばれる手法で、為替介入しながらもマネーサプライが増えないような配慮をしてきたのだ。
具体的には、市中から大量のドル資金を購入すると時に、一方では、特殊な公的債券である人民銀行債券を売却して市中の流動性を吸収しこうした方法によって市中の流動性やマネーサプライの過度な拡大を抑える努力はなされてきたが、人民銀行債券自身も、常に市中で現金化できるという意味では、それなりの流動性を持ったものである。
つまり、マネーサプライの成長がある程度抑えられても、それで過剰流動性が完全に抑えられるわけではないのだ。
中国のように、本来市場に委ねていれば通貨価値が上がっていくような経済が固定レートを維持しようとすれば、インフレや資産価格高騰のリスクにさらされざるをえない。
米国とは違った形ではあるが、2000年以降の世界的景気拡大の中で、中国国内にも資産バブルの芽が生まれていたのだ。
世界的金融危機を受けて、中国の資産バブルも破裂を始めた。
株価は大幅に下がっている。
不動産価格は、株価に比べると動きは鈍いが、各地で確実に落ちている。
今後、中国の経済成長率がさらに下がっていくなら、不動産価格にもさらなる下方圧力がかかることになるだろう。
こうした資産価格の下落は中国経済にどのような影響を及ぼすだろうか。
米国と同じように、資産価格の下落によって実体経済も大きな被害を受け、中国経済は大変な状況になるのだろうか。
それとも政府の介入などによって、資産価格下落の被害を最小限に食い止めることができるのだろうか。
この点について予想をするのは難しい。
ただ中国は、日本や米国とは決定的に違う点が一つあることを指摘しておきたい。
日本や米国が民主主義国家であるのに対して、中国は共産党一党独裁政治であるということだ。
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